段級審査は無事終了
暫定初段
審査会が終了して1時間くらいで審査の発表があった、まさるの名前が無かった。
係の人が、佐藤教士を呼んでいた
「佐藤さん、柏木さんのご推薦でしたよね」と、聞いていた。
「柏木さんは初段は通過したのですが、飛び段の審議を中央に申請しますので、今日は日曜日で後日お知らせします、これは外部には言えないのですが佐藤さんは連盟の役員なので話します、審議委員5名全員が満点でした。登録は確定後にお願いします」と、小さい声で話し離れて行った。
佐藤教士が、手を挙げて呼んでいるので近づくと、佐藤さんが
「おめでとうございます、初段はクリアしたのですが~」と、まさると握手 「飛び段の規定は昔は有ったんですが、最近は中央と審議するらしいので今日は暫定初段です」
「誰が見ても4~5段のレベルと認識しているらしいですが、2段は確実でしょうね」佐藤さんも、周りに聞こえないように小さい声で話す。
「いや~僕は今の形で良いのかわかって居ないので、先生がたに見て貰っただけで満足ですよ、上に上がりたい時は5か月毎に来ますよ」と、笑いだす。
佐藤さんは、
「柏木さんは、毎年2段づつ上がって行きますから慌てなくても良いでよ」と、会釈し同行してきた古川の父兄と受験生の傍に行き、登録の話をしながら事務所に向かう。
まさると彩音さんは、着替えをしようと道場を出ると、県連の副会長の範士八段の佐々木敬一さんが、待って居たようだ。。
副会長と懇談
「柏木さん、お話しできますか?」と、笑顔で立って居る。
「はいっ特別急ぐ用事も在りませんが、何かぁ~」と、立ち止まる。傍に和服の役員が3人程いる。
「じゃぁ~中でご挨拶します」と、事務所の脇のドアを開けた。
そこはテーブルとソフアなどが有り応接室兼会議室のようだ。
勧められて、まさると彩音さんがソフアに掛けると、役員と連盟の副会長が傍の椅子の掛ける。
常識を超えた修練
「実は、佐藤教士から事前に承って居ましたが、柏木さんの弓の習熟度を甘く見て居り申し訳ありません、一年の練習でこれほど完成度が上がることを我々として想定できなかったのです」と、佐々木副会長が丁寧に頭を下げた。
まさるは驚いて
「いや~ご丁寧に有難うございます、特別な事では在りませんで、この人も弓を引くので一緒にやって来ただけですから」と、軽く話す。
「あぁ~奥さんもお引きに成るんですか」と、別の役員が話しかける。
「はい、引きますが この人は私以上に熱心で朝夕100本づつ引いて、最近は一手づつ跪座して礼射並みに時間を掛けますから、時間が掛かりますね」と、笑う。
「あれっお家に道場が在るのですか?」と、書類フォルダを開く。
「一応、柔道場と弓道場を併設しましたので、塾生が帰った後と早朝は二人だけですから、時間は十分あります」と、まさるが答える。
「あっ柏木さんでしたか、川渡に道場をお造りになったのは?」と、別の役員が
「はい、去年の夏に出来上がりました」
「新聞で紹介されて居ましたが、奧さん段位はどの辺ですか?」違う役員
「はい、東京に勤めていた時、5段と錬士を頂きました、県の連盟には届けず申し訳ありませんでした、次回伺いますので入会を認めてください」と、会釈する。
「そうかプロが傍にいて、ご指導して居るなら仕上がりが速いよな、柏木さんは他の武道はどの辺ですか?」と、質問が続く
「柔道が5段錬士です、空手が4段で合気道は4段ですがこれは審査会で演技し、一応段位は授受しています」と、話す。
「武道のエキスパートだ、お仕事をお聞きして良いですか?」と、副会長が遠慮気味に聞くので、彩音さんの顔を見ると頷いているので
「二人とも国家公務員で12年ほど勤め、おととしの春ごろ川渡に引っ越しました。この人は退職しましたが、私は週2日だけ府中に行き柔道を教えています」と、話す。
カミソリ彩ちゃんの本音
「そうですか国家公務員の研修所があるそうですが、そこの武道場でしたか分かりましたそれ以上は詮索しないことにして、実は審議委員が、柏木さんの申請書に始めた時期と射の完成度に大きな差があると、勘違いしましてお時間を取らせたようですね」
彩音さんが遠慮がちに
「宜しいですか、この人の体力を考慮し弓を引く事より体配を重点にやって「 執り弓」で移動から「本座」「射位」と、弓をもってすり足の修練を徹底して頂きました、八節の「足踏み」から「残身」までは「すり足移動」が安定してからですが、実は2寸延びでは短く4寸延びと、合う矢束が揃わず、体配に時間が掛かりました」と、ほほ笑む。
「合気道は弓道の「気」に通じる「瞑想」なども含まれるので、短時間に安定した「体配」が身につくのが速いのですね」と、副会長も感心。
「格闘技を中心に遣って来て「弓道の自分自身」との葛藤が、違う境地が見えて新鮮でした」
「そう言う見方も、あるんですね毎週2日づつ東京じゃ大変でしょうね」
「そうでも無いです、朝早い新幹線で行き翌日は最終前に帰りますから、未だ役所の現役を断れなくて2~3年は続けることになるでしょう」
「えっ 本庁ですか?」と、驚く副会長だ。
「まぁ~そんなところです意思が弱くて、断れずにずるずる引きづって仕舞いました」
「あぁ分かりました、築館の佐々木さんでしょう、あの方は熱血児だから~」と笑う。
「ご存知でしたか?」と、まさるはそれ以上話さず、彩音さんを見る。
頷く彩音さんを見て副会長が
「どうも初対面なのに、ずうずうしく引き留めて申し訳ありません、こっちの興味で話し込み有難うございます、東京にお通いなので昇段審査は本部道場の明治神宮でも良いですから、弓道も指導資格を取ってください、この先は5か月ごとに受けられますか~」と助言。
まさるは県連盟の幹部を見渡し
「皆様のご厚意は受け留めました、しかし若い人たちの手前もありますから、やはり初段から一段づつ登るようにやっていきたいと思います、中央の連盟の申請は止めて頂けないでしょうか、慌てて昇段せず道場に来てくれる若い人たちと共に励んで行きたいと思います、如何でしょうか?」
「えっそうですか、私たちの方が反省が必要なようですね、規定が変わってこの県では在りませんが、何名かは飛び段が有ったように聞いていますが、実力は十分認識しましたからそのことはご承知置き下さい、勿体ないと思うのは我々の狭量な思考だったようですね」と副会長の佐々木さんが、しみじみ言う。
県連ともいい関係が完成
「皆さんありがとうございます。私たちがお手伝いが必要なときは声を掛けて下さい、やり繰りしてでもご協力します」と、彩音さんと立ち上がって深く礼をする。
役員のみんなも、慌てて立あがり、礼をしながら
「今日は、良い射を見せて頂き有難うございます、県連としても誇るべき新人が誕生したので、楽しみです」と、60代くらいの審議委員が手を出して握手をした。
「時間が有りますから、登録をして帰ります」と、彩音さんが笑顔で話すと
「奥さん大会の時、お声を掛けても良いですかね」と、早速声を掛けられている。