めおと道場にさくら咲く
須永先生のご慧眼
須永先生の鋭い指摘に、彩音さんがひっくり返りそうな反応で、周りはどうしのかな?と怪訝顔だ。
まさるもどうしたの?みたいな顔で眺めていたが
「それでは合気道の演武はこれで終了します、皆さん解散!」と、まさるが締める。
子供たちはわっ~と立ち上がり、急ぎ足で各道場に戻った。
須永先生がニコニコした笑顔で、まだ話足りない様だ。彩音さんも生真面目な顔で先生の顔を見ながら、話している。
「今日は、ここの道場へきて今まで得られなかったモノを見つけました、柏木先生有難うございます、もう一度基礎体力を付け直して、合気道をマスターしたいと思います」
「須永先生、私の方こそ色々学ばしていただき有難うございます、近いうちにお邪魔して診察して頂きますのでよろしくお願いします」と、彩音さんが丁寧にお礼を言う。
まさるは、ホールの窓を開けて空気の入れ替えを遣っている様だ。
彩音さんは弓道場に行くので須永先生に、声を掛けると「はいっ」と、ついて行く。
須永先生も弓道の経験者
「あらっ~こんなに低い巻き藁も有るのね!」と、架台の低い巻き藁の扉を開く
「小学生は体が伸び盛りで、調整が大変そうですね」と、巻き藁を撫でながら
「この装置は画期的ですね」と、感心している。
祖父が、射場と廊下の仕切るを外し「巻き藁」を棚に載せた。移動できる架台の巻き藁も残しながら、棚に大人用3台と子供用2台造り、いづれも架台が上下に作動するハンドルを付けて呉れた。特に子供たちに好評だ。
「須永先生は弓を引いていらっしたんですか?」と、聞くと
「え~ぇ女子高だったんですが、お茶を遣っているとき、小笠原流の家元に見学に行き、若先生がどこかの射会の矢渡しを頼まれ、お庭で装束を付けてお稽古していたのを見学しました」
「それは凄いご経験で、貴重な瞬間でしたね!」
「その頃は小笠原流が和弓の所作に取り入れられたことは知らず、若先生の優雅な所作に魅せられ、お茶と掛け持ちで2年と3年の前半を弓道部に席を置いたんです、ゴムのパチンコ見たいなので練習しましたよ~」
「弓に矢を番えて離すと、矢は芝生の途中で落下し、弦が左腕に当たり紫色になって、夏なのに長袖を着ていた苦い思い出があります」
「そうですね、最初は皆さんが体験しますね、私もサポーターをしたり包帯を巻いたり泣きながら引いて居たことを思い出します」
見所で初心者の特訓を観る
彩音さんが、須永先生を見所に案内し
「若い人たちが引きますから、ご覧ください」
「私がこんな高い所では失礼じゃないですか」と、恐縮する。
「大丈夫です、今日はお客様ですから座布団を敷いてユックリして下さい」と、横の棚から座布団を2枚出して、敷く。
待機していた少し経験のある中高生4名に自分も執り弓で、横について入場から本座・射位への所作を丁寧に話しながら、指導している。
級をパスした経験者も居るが、秋の初段の審査を目指して特訓中だ!
「視線は上ではなく正面を見るのですが、観客や見所の方と目を合せないように自分の所作に集中してください、踏み出しなどは隣の人の動きを感じながら合わせるのが大事です」
「視線をキョロキョロ動かさず、周りの気配に注意するのです、審査の場合入場の所作から見られていますから、今やっているこの稽古は何度も繰り返しますから、自然に動けるようになるまで頑張りましょう」
最初と2回目はマイクで語り掛ける様に、4人が揃うように注意して3回目は彩音さんが外れ、注意もせず一手(2本の矢)射る。
彩音さんも須永先生の脇に戻り、静かにメモを取りながら仕上げの練習を見ている。
練習は、経験者の何人かいて、射場で上級者が射る時は新入の塾生は見て学ぶ事に集中するように指導しているので、巻き藁なども射場の動きに合わせ無駄話などに注意する
「柏木先生は丁寧ですね、若い人たちに緊張させない工夫で言葉使いが、はっきりして教る方も真面目ですねぇ」
「私はガサツな職場で上司にナジラレながら育ったので、自分の話し方に気を遣うようになったかもしれませんね」
「あぁ~そうだったわね、桜田門を配下に置くお役所だったと聞いていますが、やはり男女の差別は在りましたか?」
「はいっ 外見は気を付けていますが研修時期は、大学の運動部に比較できないほど絞られましたね、そこを通過して1年くらいで警部に昇格しますが、古参のノンキャリの先輩は意識が変わって居なかったようです」
「まさる先生も同じ職場と聞いていますが、タイミングを同じにして川渡に来たようで、同じようなポリシーと言うか目的を持てて良かったですね」
「勤めを継続して行くにはどこかで妥協が出て来ますから、二人で半年くらい話し合いを続けました。
出会ったのが私が一年生でまさるさんは高校を卒業、私が叔母のお店で春休みのバイトをしていた時です
まさるさんは計画が有って、丹沢を縦走し小田急の松田駅前のお店に寄って、縦走で汚れたので着換えたいので、スポーツウエアを新調し更に遠くへ出かける雰囲気でした。
その受け答えは今も同じです、温厚だが芯が強そうに感じました。
ほんの5~6分のすれ違いの様な応対で、まさるの名前も住まいも知らないまま12年後に、役所の表彰式で2回目の出会いで、【あっこの人だ】と思いました」
「済みません、こんな私的な話を長々と話してしまいました」
「いやぁ~凄いラブストーリーですよ!しっかりした絆はほぐれないですね~」と須永先生が感心して呉れた。
「入庁して五年くらい時間があったのですが、私は地方の本部などを経験し、まさるさんは特殊勤務で海外で単独行動をして、かなりきついお仕事のようでした」
「それでは役所とは縁が切れたのですね」と、念を押す。
「それが未練がましいというか、まさるさんは昇格して大学の講師的立場で、武道を週2日府中で教えています」
「えっ東京へ2日通っておられるのですか?それは又きついお仕事ですね」
「まぁまだ若いから3~4年やって見るよと、1泊2日の通勤を楽しんで居ますよ」
「そうゆう勤め方法も、あるんですねぇ」
「前からの、しがらみで役所のNO2の秘蔵っ子で手放したくない様で、週20時間の2日で授業設定をしている様です」
「お人柄が周りの人も柔軟に対応して呉れるんですね、羨ましい限り」と笑う。