カン・ソンシさんは日本人だった-4(婚約の報告)
7年ぶりの帰郷
東京と横浜の契約は、単価の見直しも快く了諾してもらい、大阪の商社の件は噂で流れていた様だ。
ほぼ正当な取引で、契約続行を確認して長野の実家に向かう。
榊原さんが深圳大学に留学するときから、しばらく帰国できないことを話していたが、今日の午前中に、会社の出張で帰国したので長野に寄ることを連絡していた。
一人で来るのかと思っていた両親兄弟は、ユウリンさんと連れだって来たので驚ろき、家じゅう大慌てで片付けなど始まった。
両親は、カンさんの会社に就職したことは手紙で連絡して有ったので、何となく予感していたので寧ろ喜んでいるようだ。
家業を継いだ兄は、自由が丘の騒ぎで休学した時、国内では落ち着かないだろうと【少し外の空気を吸って気持ちを入れ替えろ】と資金援助し東南アジアを進めてくれた。
二十歳前後の海外一人旅で、純真な学生が台湾中国と渡り歩き、言葉はある程度通じたが、外国で放浪のような生活は想像以上に苦難なものだった。
大陸を横断する形で深圳に到着して、初めて【ホット】安堵した気持ちになった。
人の情(ナサケ)がしみじみと感じ、涙を流すほどの出会いであった。
同じ年齢のユウリンの優しさにもほだされ、荒んだ心情が解けて笑顔が多くなり、カンさん一家から信頼を強くしていった。
ユウリンは父の影響から日本が好きで、家族旅行は北海道から九州まで知り尽くしていた、高校のころから日本語を学び、大学は深圳大学で自転車通学出来ろ近さだった。
婚約の発表
榊原くんが帰郷の目的、婚約の報告をした。
「中国を旅行しボロボロになった僕を救ってくれた、カンさん一家の長女カン・ユウリンさんです、会社が落ち着いてきたので、春ごろに結婚することにしました」と紹介。
ユウリンも正座し【カン・ユウリンと言います。よろしくお願いいたします】とキレイな日本語で、丁寧に礼をした。
家じゅうがびっくり、中国の若い女性が三つ指を付いて、礼をされて驚いた。
両親は、驚きもせず静かに自己紹介をし、兄夫婦も座り直して自己紹介をした。
甥と姪も、照れながら大人たちに続いて名前を言って、自己紹介をした。
初対面でも日本人と変わらない面立ちで、日本語が話せるユウリンは旧家でもたちまち人気者になり、華奢に見える体で八極拳の指導免許の保持者で有ることも信頼度が上昇
榊原くんは、ユウリンの婚約者と言うだけでも奇異にみられ、会社でも幹部として処遇されていることが、信じられない様だ。
田舎の若者が中国の会社で、営業を任されて日本の商社と対等に取引しブラック企業を切り捨てた手並みは、ビジネスマンとしても羨望の目で見られた。
裁判も勝訴
長野の実家で晩餐の接待を受けているとき、カン社長から電話が入った。
「今日の午後、前取締役の訴訟で判決が下り全面的に勝訴、5年ほど前からの不正取引のほぼ全額を返済される判決が下りたんだよ、これは全て榊原くんの功績だよ」とうれしい速報だった。
みんなの前で、榊原くんがカン縫製会社の入社したいきさつは、倒産寸前の会社を再起動させた経緯を説明し、やっと安定操業のめどが立ったことを報告した。
「早速戻って、会社の施設の整備や増築など忙しくなりそうだ」と続けると
「何言っているんだよ、さっき着いたばかりで忙しないやつだなぁ~」と父親が笑いながら苦言を言う。
兄も「明日は土曜日だしユウリンさんは日本の温泉が楽しみだと言っているよ、俺が運転するから1週間ぐらいはゆっくりして休養をとれよ」と温泉巡りに自分の車で付き合う気配だ。
なぜか気が合った兄嫁の幸子さんとユウリンが【幸子様は外でお仕事は為さっているのですか】と聞き【お時間があるのでしたらご一緒したいですね】と言い出した。
「それじゃ16人乗りで親父たちも一緒に行こうか~」と兄の宗一郎が案をだした。
両親も笑顔で聞いていたが【俺たちは邪魔じゃないのか?】と引いたが、ユウリンさんが榊原くんに頷き、両親も一緒に行くことが決まった。
長野にも温泉が数多あるが、隣の群馬県の草津温泉に予約して、翌日は土木会社の小型バスで出発。
両家の温泉巡り
途中のフルーツ農場で、ぶどうと桃狩りを楽しみ、川原のバーベキューコーナーでは子供たちもはユウリンさんにも気後れせず馴染んで、ユウリンも大喜びだ。
日曜日は善行寺周りで上田に帰った。ドライブの疲れを手足を伸ばして癒していると、深圳の社長から電話が入る。
深圳の黒いうわさが気になる
裁判で敗訴して落ち込んでいた、前取締役が地元のテレビのインタビューで【俺はカン縫製から搾取したつもりじゃない、奴らに嵌められた】と嘯いていたらしい。
【今後は十分気を配って行動しなくちゃいけないよ、何か後ろ暗い連中と手を組んでいることが、弟の専務が聞きつけた様だ】と忠告の電話だった。
ゆっくりする積りになり掛けたが、やはりカン社長の言葉が気になり、翌日の便を予約慌ただしく、新幹線に乗る。
月曜の夕方深圳に帰り、カン社長の無事な姿にホットしながら、防禦作戦を協議。
会社も無防備では舐められる、それなりの部署を設定、社員の安全確保も考え早急に対応することにし、榊原くんも武道が得意なので社内にセクションを設けた。
八極拳の呉先生に相談し、それなりに信頼できる知り合いや塾生を紹介してもらい、結構な陣容のSG(Security Guar)チームが出来上がった。
会社の幹部が外出する際は、SGチームが同行することを決めた。社長の自宅は会社の地続きで、工場側から自由に出入り出来たので閉鎖し、表から入るように変えた。
公安と税務が連携して前取締役の資産チェックが進み、銀行口座を差し押さえ、脱税分を追加納付で回収、賠償金はカン縫製の口座に振り込まれた。
カン縫製が想定した金額の10倍ほどの金額が振り込まれ、銀行が驚いて連絡をしてくる騒ぎになった。
相手もショックが大きかったようで、会社の前を窓を黒く塗った車が、ゆっくる通り、伺っている気配を感じるようになった。
今回、会社に警備部署を設定する相談した地元の警察の話すと、早速現場を見てくれて黒の車も確認、直後からパトロールのコースに加えて呉れた。
専務も家族持ちだがSGチームと一緒に社長宅に泊まり万全の態勢を整えた。
会社も安定操業になったので、榊原くんとユウリンの結婚式は小規模の身内だけのパーテーで済ました。
住まいだけは、敷地内にあったゲストハウスを改造し、社長宅に近くなりお互い心強くなり、食事も相互に行き来するので、一日一回は一緒に食べている。
相手の動きが無いが、油断できないので新婚旅行はお預けの状態だ。
社長宅で夕食後
その日は専務とSGチームの主任が夜勤で、珍しく社長夫妻と榊原夫妻と夜警の二人も一緒に楽しく食事をした。
専務とSGの主任は、食後の巡回で工場側に向かうとき玄関のカギが開いているので違和感を感じたが、一歩外に出た瞬間社長の寝室側から「ギャー」と声が聞こえた。
榊原くんも自宅の戻り風呂に行こうかと立ち上がった時、今戻った社長宅から「ギャー」と聞こえた。