まさる先生のブログ

新たな武道の境地を目指します

武道場のきずな(榊原さんの回想ー3上海で柔道師範代)

 リューさんの気配り

日本語教室の、リュー・チェンユーさんのお父さんは、キエンという名で若いころ日本に留学して、今も日本ビイキで榊原さんを親身になって世話をしてくれた。

 

中国語を学ぼうとホテルに泊まって、教室に来るのは大変だろうと気にかけ、教室が終わる時間を見計らって会いに来た。

 

「榊原さん、未だ上海に滞在しますか?」と聞く。

「えぇ~日本で学びましたが、現地では通用しない部分が多いので修正して頂いています、これから一か月は掛かりそうですね」

 

「それは丁度よかった、チェンユーの所に来ない時間は暇でしょう?」と単刀直入に聞いてくる。

「はいっ 前日に習った部分を復習したり、街を散歩したりしています」と正直に話すと、リュウ―さんは喜んで

「それでは勿体ないから、アルバイトしませんか?」と言う。

 

「アルバイトですか?上海の言葉は広東語とも違うので、良く通じないでしょう?」と引っ込み思案だ。

 

「いや~大丈夫です、余りしゃべらなくても通用しますから、実は私が関係して居る柔道場の館長が脚を怪我して入院し、師範が居なくて閉館状態なんです」

 

「あぁ~柔道ですか?空手で問題を起こしてから、道着を付けづ体がなまっちゃって笑われそうだね」と空手も柔道も暫く遣って居なないので、控えめに話す。

 

榊原さんは資金的に余裕が有りバイトの考えは無かったが、リューさん一家の好意に感謝の意味で、道場の見学に同行した。リューさん宅から4~5軒離れた処だが、毎日のように通って居てもが気づかなかった。

 

60畳敷きの中くらいの規模だ、きれいな道場で小学高学年の子供たちが、受け身を練習して居たがバラバラで緊張感が無く、不安を感じた。

 

「夕方から日系企業の経験ある人にお願いして、見て頂いて居るんですが時間がまちまちで、子供たちには気の毒なんですよ、日中はあぁして受け身の真似事をしています。私たちは若いころに審査を受けましたが、今は指導なんかできる体でも無いし名前だけ名誉館長で、運営だけバックアップして居ます」

 

「館長の怪我は大腿部で、完治するには時間が掛かりそうなので、うちの会社の関係で知って居た若い人に声を掛け、お願いして居るんですが、勤めが有るのでコンスタントに来れないようです」

 

「分かりました、私も目的がはっきりして居ないので、いつまでお付き合いできるか分かりませんが、最低一か月は滞在しますので、お手伝いします、教室は、週4日の午後が授業で、毎日の午前中は暇で3日はフルタイムOKです」と、引き受けた。

 

食住付き師範代

「それは有難とうございます、チェンユーに話をして調整も出来ますが、ホテルを引き払って道場の部屋に来ませんか?」と唐突に話が変る。

 

「ここへですか?」と見まわす。後ろの方に見慣れない女性が立ち会釈をする。

榊原さんも慌てて会釈し

「あぁ私の女房の親戚で、ここの館長の奥さんでワンさんです、道場の隣に住まいが有り、いまは一人で切り回しています」とリューさんが紹介

 

「ワン・クインシーと言います、今 うしろでお話を伺って居りました、宜しくお願いします」と丁寧に頭を下げている。

 

「榊原修二と言います、日本から来た学生です」と自己紹介をする。

 

さっきまでバタバタと受け身の様な動きをしていた子供たちも、名誉館長と館長の奥さんがお客さんと話して居るので、離れて緊張した顔で立って居る。

リューさんが子供たちに向いて

「今日もお稽古、ご苦労さん。今日はみんなに好いニュースが有ります。館長の怪我はかなり長く掛かりそうだが、日本人の旅行中だったこの先生に、お稽古を見て頂くことが、今 決まりました」と言うと。

みんなが「わ~っと声を上げて大喜びだ。

 

「みんなは嬉しそうですね」と小声でリューさんに話すと

「こんなに早くから稽古するのは、土日くらいですから嬉しいでしょうね」とリューさんもホッとして居る。

 即断即決師範代

「それでは、今日からやりましょうか?」と、カジュアルの上着をぬぎかけると

「それでは、道着を用意しますから少しお待ちください」とワンさんが道場脇の引き戸を開け、棚から未だ袋に入って居る新品の柔道着を2着持って来てくれた。

 

見ると、日本のスポーツ用品メーカーの柔道着で、榊原さんも使用して居た。

「奥さん使ったもので良いですよ」と言うと

「大丈夫です、ゲスト用に用意して居るのですが、新しいと馴染まないでしょうが今晩洗いますので、お使いください」と差し出す。

 

「榊原さん遠慮せずに使ってください、一区切りしたらホテルを清算しましょう、私の車を用意しておきます、少し体を動かして子供たちを見てやってください」とリューさんが子供を呼んだ。

 

「榊原先生を更衣室に案内してください」と指示すると

「シー(是)」と語尾を下げ、榊原さんの顔を見て先に動き出す。

「ジャオシーギャングシー(教师更衣室)」と更衣室の奥の扉を開けてくれた。

「シエシエ(謝謝)」と礼を言うと、その子は驚いて顔を見る。

 

こうして少し打ち解けた気持ちになり、新品の道着に着替え素足で畳を踏み馴染ませる

子供たちは躾が良く、7人が横一列に並んで待って居る。

 

榊原さんは、ここでも自己紹介し

「少しの間だけれど、皆さんと柔道の稽古が出来るのが楽しみです、皆さんの名前は後で知らせて下さい、先生は準備運動をします。参考になるかも知れませんから見て居て下さい」と、立った姿勢で、両手を顔の前で三角形をつくり、ゆっくり前に倒れ最初に作った三角形を(両手の平と両肘)畳に付き、腹は打たずに両ひざが遅れて付く、「前受け身」から始めた。

 

子供たちが見ていたが、180cmの体がスーッと倒れ、その音に驚いた。

次は、蹲踞の姿勢から前方に飛ぶように、「受ける形」だ。

次に、「後ろ受け身」も続け、左右の「横受け身」もバリエーションが多く一通り遣ってみる。

暫くぶりに汗を掻き、ワンさんが用意したタオルを借りて汗を拭く。

 

「みなさん、今までお稽古してきた形と同じでしょう?、少し違うなぁと思った人はいますか?」と聞いてみる。

 

さっきロッカーに案内してくれた子が

「先生は、畳に体が付くまでそのままですけど、私たちは肘を曲げたり顔をそむけたりするので、体が痛くなります。先生は大きな音がしますが、痛くは有りませんか?」

 

「よく見ていましたね、お稽古ではいろいろパターンを変えて、やってみてどの形が痛いか辛いかわかると思いますが、技には必ず正しい動作があります、その動作を体に覚えさせることが大事です。例えば「前受け身」は、顔の前で三角形造りますが、この形のまま「肘と両手の手のひら」を崩さず倒れるだけです、怖さが無くなるまで「蹲踞」で低い位置から倒れ方を何度も続けて、恐怖心を無くすこともお稽古の手順です」

「受け身」の大事さ

「柔道で一番大事な技は、「受け身」です。しかしその前に、ここのお師匠さんに教わったのは違うでしょう。何でしたか?」

 

「誰か思い出してください」と全員の顔をゆっくり見て行くと、最初のリーダーより少し小柄な子が手を挙げた、「ハイどうぞ」と言うと

 

「立ったり、座ったり、礼をしたり、凄くゆっくりした動作だと思います」

「正解です、そうです柔道の基本中の基本は「礼」です、道場に入る時も、稽古を始める時も必ず「礼」をしてから、行動します。

皆さんも最初は、立ったり座ったり基本から始めたでしょうが、立ったり座ったりは、毎日お家で意識せず行動して居るでしょう。何で柔道を習うのにこんなことをお稽古させるのか、気になったでしょう。これはは日本の武道は「礼法」を重視して居ます。

練習でも試合でも、相手がいる場合は相手を尊敬して(心の中でお願いします)必ず礼をします」

 

「今皆さんんが立って私の話を聞いていますが、その立ち方が基本です、ここの道場の先生方も基本をきっちりご指導して居るので、皆さんの立ち方がすっきりして居ます」

 

「それではこれから、練習に入ります。今日は2時間やります、休憩は1時間くらいで10分休み、水などを補給します。まず皆さんが先程やって居ましたが、両手を横に広げて相手に当たらない程度、前後は2メートル位の間隔にたちます」

 

「受け身は」何の為に練習するか、皆さんは既に教わって居ると思いますが、念を押しておきます。「受け身」は自分が倒れる時も、相手に投げられた時も、怪我をしないように痛みを軽くして、楽に倒れるようにすることです。前後左右に倒れる場合と、前方に転がる場合が有ります。

「受け身」は直接投げ技の基本になるだけでなく、柔道の技全体のの基礎になり、一番重要です。もう一度前後左右をゆっくり確認して、転んでも相手に当たることがないですか?」

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子供たちは筋肉が弱いので、蹲踞の動作でふらつくが榊原さんは根気よく付き合う(^^♪    【画像引用:柔道チャンネル】


「先生がやりますから、見て下さい、立ち上がっとき皆さんも遣ってください」と「後ろ受け身」をやる。

 

一斉に動いたが、両腕の高さ、手のひらの向き、蹲踞で尻もちをついたり恐々倒れるので畳に手をついたり色々だ。

 

「立ってください、もう一度先生がやります」と言いながら、両足を肩幅くらいに広げ両腕を上げ、手のひらを向きあわせる。蹲踞もゆっくりしゃがみ、そこで一度動きを止めて、静か尻をかがとをつけながら、背中を畳に付けて頭を上げ両手で畳を叩く。

 

「はいっ」と声を掛け、「後ろ受け身」を催促する、2人ほどバランスが悪いので

「ほぼできる様になりましが、本来はもっとスピーディーに遣るのですが、練習ですからゆっくり形をなぞって、最後です」と榊原師範代は率先して模範を示す。

「ほとんどの「受け身」は相手に仕掛けられ、投げられた時に自分の体を守る技になります、毎日一つづつ体に覚えこませ柔道で怪我しないように、頑張りましょう、休憩」と声を掛けた。

 

ほとんどの子が、汗びっしょりでその場にへたり込んだ。

リュー名誉館長が近づき

「有難うございます、中身が濃いですね」と小さな声だ。

 

「子供たちが、嫌がらずにやって呉れましたね」

「どの顔も、納得と言うか満足顔ですよ」と嬉しそうなリユーさんだ。