武道場のきずな-17(山形のお友達ー4)
まさるは留守を師範代の高田さんに頼み、彩音さんと壮太にはいつものように弓道場を頼み、シンディ―母娘をワンボックスで天童に送ることにした。
斉藤くんが、明日天童に顔を出して理事官の本気度を示し、タガを締め直すことを考えている様だ。
シンディーのトラベルプランナー
シンディーは昨夜のうちに、リュー所長たちの乗り継ぎチケットをリザーブ、彩音さんのプリンターを借りてスケジュール表を作成して、若し時間調整つかない場合のサブプランも作り、説明していた。
まさるの車と、榊原さんの車が同時に出発、古川から高速道路に入り途中まで前後して走行し、まさるのスマホをシンディーが持ち榊原さんのスマホをリュー所長が持って、情報交換しながら走行する。
相互に挨拶などして、榊原さんが富谷JCTから海側に岐れ、仙台北部道路経由して海岸通りの仙台東部道路で、仙台空港に向かう。
まさるは、シンディー母娘が岡山に行く予定なので、アドバイスしながら走る。
<山形新幹線で東京に出て、新幹線を乗り継ぎ岡山まで行く方が便利かもしれない>と話すと
「そうですね博多行きとか広島行きとか、頻繁に長距離の新幹線があるようですね」とおかぁさんが楽しそうに話す。
「そうねスマホで検索したら、一時間に4~5本も通るんだね、時間も3時間くらいで、倉敷と岡山の間だから岡山からタクシーでも好いわね」とシンディーも早い。
「柏木さんにお仕事を休ませて、申し訳ありません」とおかぁさんが気に掛ける。
「私が初の海外勤務の時、お世話になりました、お爺様の船でカンさんも一緒に、本国の海岸沿いを海南島近くまで追って頂きました」
「あの時の経験が今の仕事に繋がり、本当に有難う御座いました」と頭を少し下げる。
「そうですね、あの時は2~3日連絡が入らず、どこまで行ったのか家でおかぁさんと心配して居ましたね、私が高校生でお爺さんが現役でカンさんも若かったですね」とシンディーも思い出している。
「本国の海警に捕まったのかと心配でした」とおかぁさんも心配していた様だ。
「海上で海警の警備艇に停船を命ぜられ、お爺さんの知り合いで”拘束„を回避、解放してもらいドル紙幣何枚かで穏便に済ましてもらいました、今の時代では無理かもしれませんね」とまさるも思い出した。
天童は近かった
車は東北縦貫道を仙台宮城ICで降りて、国道46号を西北へ進む。関山トンネルを過ぎると、天童スキー場などの看板が見える。
昨日、山本さんから仙台回りが時間短縮になると聞いたので、今回試してみた。
仙台から天童は凄く近く、カーナビの案内が快調で市街地を出ると、少し登りになり集落が見え、工場の脇に大きな家が見えた。
「山本建築」の看板で、工場に見えたのが木材加工場と貯木場だ、最近は工場で図面通り加工し建築現場にトラックで運び、普通の家なら当日棟上げ式も可能だ。
工場と住まいの間に、大きい駐車場があり、30台くらい駐車している。
母屋の脇に芝生の公園のような庭園があり、日除けのパラソルの下で、中型犬と4~5才の子供たちと遊んでいるのが、昨日の幸子さんだ。
家に挨拶する前にシンディーが、窓から声を掛ける。「幸ちゃん来ましたよ」と手を振る。まさるは駐車場の入り口で、車を停め母娘に降ろす。
「シンディー本当に来てくれたのね(^^♪」と小走りに近寄ってくる。後ろから3人の子供も付いてくる。
「走ったりして大丈夫なの~」とシンディ―が心配する。
「ここは転んでも、ケガをしませんから子供たちの遊び場なの」と、シンディーとハグしている。子供たちはシンディーの顔を見ながら笑顔が消え緊張している様だ。
「こんにちは、私はシンディーと言います」と子供たちに頭を下げる。
田舎の子供たちは、幸子とシンディーを見比べて、幸子さんに眼で問い掛ける。
「そうですね、このきれいなお姉さんは、幸子のお友達で外国から遊びに来たの」
5歳くらいの男の子が「さちねいは外国に行ったことあるの?」と聞く。
シンディーは病み上がりの幸子を庇って、ガイドのように「さっちゃんは隣の中国と言う国に勉強に行き、そこで私(自分を指差し)と友達になったのよ」
「だってシンディーおねぇさんは、すごくにほんごがじょうずに話すし、さちねぇががいこくごを話すのを聞いたことないもん」と、一番の疑問をブッツケてくる。
「あぁ~そうか、私たちの事より父母のことから話すさないと、成立しない会話なのね」とシンディーが母和子とまさるを振り返る。
「やぁ~いらっしゃい」と大きな声がして、幸子さんの父真司さんと母親の伸子さんが迎えに出て来た。
まさるが一番近くに居るので「ちょうど都合よく時間があったの送ってきました、元気を取り戻したようで安心しました」と会釈する。
「そうなんですよ、子どもたちは身内の甥や姪ですが、こうして日に当たって遊ぶのは5~6年ぶりでしょうか」と真司さんもホッとした笑顔だ。
幸子さんの蘇生
伸子さんも「昨日までの日々の緊張が、嘘のようです」と表情がなごむ。
「川渡のお宅でお爺様が<露天風呂をどうぞ!>と言われた時、なんでお風呂なの?と思いました、お風呂でシンディ―さんと他愛ない話で盛り上がる娘を見て、何年ぶりかで幸子の心の声を聞いた様な気がしました、この家で一緒に風呂へ誘っても、心痛な顔が、ほぐれることが無かったのです、ゆうべシンディ―さんと柏木さんの話しを聞いているうちに、急に話す声が大きく成りハッキリ話すように聞こえました」
シンディーの母とまさるたちと山本夫妻が、真剣に話し合っているのを見て、幸子さんがパラソルの下から裸足で近づき「おかぁさん皆さんをお家にご案内して下さいよ」と、厳しい声を掛けて来た。
「うわぁ~怖い幸子に叱られたぁ~」と笑いながら
「どうぞ皆さまこちらから、玄関の方にお回りください」と静かに歩みだす。真司さんも嬉しそうに後に続く。
シンディーが「さっちゃん、ハイお靴」と幸子さんの前に揃える。
後ろから子供たちも付いて、シンデイーは保育園の保母さん役だ。庭先から西の方に寒河江の町があり、周辺はフラットで見晴らしが良い。その先に出羽三山の湯殿山と月山がゆったりと構えている。天童は内陸部に位地し、山本家は丘陵部なので見通しがいい所にある。
まさるは真司さんと話し<シンディー母娘は岡山の母親の実家に回る予定なので、天童から山形新幹線に乗せて下さい>とお願いした。
<自分は幸子さんの友達がケガをした事案について、同期の友人が天童署に来るようなので逢って帰りますので、シンディーの話を聞いて上げてください>と念を押す。
斉藤くんが11時に天童署に来るようなので、30分前だがお暇し様と腰を上げた。
幸子さんが気付き「柏木さん今回はお忙しい処、お休みいただき有難うございます、今回はシンディーにも迷惑を掛けましたが、皆さんのお心遣いで気持ちの切り替えが出来そうです、シンディーはマカオに帰りますが、川渡に二人のおネェサンが出来たのでまた川渡に寄らしてください」と正座して丁寧に挨拶をしてくれた。
天童の家族もシンディー母娘も、幸子さんの挨拶が凛として皆も驚く。
「丁寧なごあいさつ有難うございます、ユウリンも彩音も妹が出来たと言って居ましたので、いつでも気が向いたら遊びに来てください」とまさるも挨拶し、
「シンディーさんも和子さんも、お気を付けてご実家に回って下さい」と会釈する。
シンディーの壮大な計画
まさるが靴を履いて居ると、シンディーも靴を履いて居る。
「どうした?」とまさるが聞くと、車の傍まで付いて来て、まったく初耳の計画を淡々と話す。まさるは仰天したような顔で、シンディーの顔を見つめている。