究極の昇段審査
マイケルの1戦目
審判が二人の眼を確認
「始めっ」の声を発した。マイケルがスッと詰め両前襟を手前に引き、相手が傾いた時には下に潜りほんの2秒位で右足に力を込めて蹴り上げていた。
相当自信があったような顔つきだが、簡単に一本を献上し顔をゆがめ興奮している。
Y講師のアドバイス通り、2メートルの長身を一瞬縮ませ潜り込み、巴投げを極めた。
投げらた対戦相手は、呆然として受け身も崩れ肩を打ったらしい。
2戦目
学生の様だが、前の試合を見ているので両手を振り回す様にガードしている。ゆっくりした動作で左で袖をつかんで引き寄せる。
マイケルの腕力は見た目より頑健で、振りほどこうとすることに集中して居るので、相手の左足が着地寸前に軽く払うと、出足払いが簡単に極まり横倒しになった。
3戦目
30歳くらいの体を使う仕事らしいが、組んだ瞬間に強さを感じた、投げを受けたら仕方ないと右自然体で右釣り手で引きながら返し、左は袖をしっかり握り身体を寄せる。
相手が意外そうな顔をしたので右をさらに引きながら腰を低くしながら体を回すと、身体が浮いたのでそのまま背負い投げで投げる。
その様な形でマイケルは快調に5人まで、全て危なげなく一本勝ちで進んだ。6戦目の受験生が道場の端に立った時、審議委員席から手が上がり審判を担当していた審議委員と話をしている。
審判が戻りマイケルに近づき小声で
「控えの席に戻ってください」と、ニッコリした笑顔で審査終了を伝えてきた。
周りの受験生が
「おめでとうございます」と、小さな声を掛ける。
「まだ決まったわけでは在りませんから」と、小さな声でつぶやくマイケルだ。
「形」の審査も書類で終り、かなり時間がある。筆記の論文は小難しいことは書かずに「護身の備え」と、オーソドックスな文言でまとめた。
マイケルは、実技の受付に近づいて誰かに聞いて見ようと様子を見ていると
「おぉ~名護くん、終わったかな?」と、特修科のY講師と同じように「形」や実技を教わっている木藤六段教士だ。
「木藤先生はいっ、実技で(終わりました)と言われましたが、この後何か有るのか確認に来ました」と、訪ねた。
「筆記は朝一だったね、「形」の書類審査は都内の講習会に殆ど参加しレベルが高かったので審議委員が満場一致で合格でした、実技も全部一本で名護くんは稀に見る特待生だね、内緒の話だが「合格」が出ているよ」と、一歩近づいて小さな声になり、ポンと肩を叩いた。木藤先生も,1.8メートル位あるが、マイケルを見上げる様に笑顔で話す。
「通知は、郵送になるが1週間くらい掛かるかも知れないが、待って居てください」とその時だけ普通に聞こえるくらいの声だ。
「Yさんに逢ったかな?彼は3段の審議をしているから、夕方まで掛るかな、明日からも稽古に来るんでしょう、ゆっくり反省会を遣ってください」
「はいっ兎に角、今は柔道が趣味なので年末の終了までお邪魔します、よろしくお願いします、今日は帰ってもよろしいのでしょうか?」
「はい お疲れ様でした名護さんは、柏木まさるさんにも教わっているのでしたね、私も4~5段頃に稽古しましたが、名護さんと同じで身体が柔らかくて敏捷性があり、いつも投げられていましたよ
「木藤先生も敵わなかったですか、僕も空手を遣って居て飛ぶ稽古をして居ましたので、身は軽い方ですがまさる先生は合気道も段持ちで、決まったなと思ってもふんわり飛んで空転受身で躱されることもあります」
「まるで現代の忍者ですね、180センチ以上もあるのに凄い人ですね、逢ったら宜しく伝えたください、たまには講道館にも顔を出してくださいとね」
「分かりました、有難うございます」と、最敬礼ではなれる。