まさる先生のブログ

新たな武道の境地を目指します

武道場のきずな-35(遠隔操作ー9)

デッキは和気藹々の交流会

「佐藤さんたちのお仕事も、可なり際どいですが今回はいい経験になりました」と安堵したように言う。「私も、このようなハッピーエンドな仕事なら嬉しいのですが、まだ少し有りますから」と、話しながら階段を昇る二人は驚いた。

デッキ上は和気藹々と歓談している。
弥父娘もみんなの和やかな話を聞きながら、今日までの緊張した生活を思い浮かべ、気持ち和み自然な笑顔になって居る。
シンディー船長もリャン船長と舷側越しに、商売上の情報交換など楽しそうだ。やはり前後に停止して居る、警備船や巡視艇の事が話題になって居る。
佐藤領事官は2艘の乗組員とゲストを確認、「弥・賢樹さんと鈴由さんお疲れ様です、ただいま、出国手続き完了しましたので、リャン海上サービス号にお乗りください」と宣言のように大きな声で伝える。

何となく自由の身

拓少尉がデッキで手を出し、弥さん父娘を介添えするように渡船を手伝う。「弥さんお疲れ様です、今度は東京の居酒屋で一杯遣りたいですね」日本人のような冗談を言う。

二人がリャン号に乗移ったと同時に、みんながが拍手する。佐藤領事官も一緒にリャン号に戻り「弥さん落ち着いたら東京の居酒屋で拓少尉を呼んで一杯やりましょう」とみんなを笑わせる。
佐藤さんは後ろを振り返り「拓さん、またお会いしたいですね」と手を伸ばす。シンディ―も弥さんと鈴由にハイ・タッチしする。ケイとリャン号の助手が舫いを緩める、たちまち4~5メートル離れ波力にゆだねる。

拓少尉とケイ伍長が敬礼しシンディーと操舵するニールがホーンを鳴らしながら頭を下げる。リャン号の5人と弥親娘も顔を並べて一斉に頭を下げる。もう声がとどかない距離になり、その場から前進するがリィーマリン号は90度角度で真横に沿岸に、リャン号は180度回転して高雄方向に舵を切る。

離れていた警備船も、同時に動く。やはり警笛を少し長~く鳴らす。海の男たちの意思を伝える挨拶なのだろう、シンディーは思わず目頭を押さえる。
拓さんが後ろで「やはり何か寂しいですね、弥さんたちのこれからの事を思うと、切ないです」と仲間と別れたような気持ちが、伝わる。ケイ伍長もニールも声を出さないが、同じようにしんみりと前方を見ている。

丁度この状況を見ているように、拓少尉のスマホが受信音「はいっ、ただいま迎えのクルーザーにお渡し、別れたばかりです」「そうか有難う、気を付けて帰れ、深圳に連絡用ジェットを飛ばしたから、飛行場で落ち合え、以上」と切れた。
「シン少佐は、気張ってるな、帰りは飛行機だよ」とケイに伝える。「それはうれしいですね」とケイも笑顔になる。「そうだったのね、拓さんたちは隔離患者だものね」とシンディーが冗談を言う。シンさんの部隊は、地方に駐屯しているが指揮系統は一か所で、全国に散開した中隊クラスが警察より瞬時に対応する。「そうですか、この船は病院船でしたか」とニールも笑う。
郭・俊船長の巡視艇も顔が分かる位接近して随走し、「リィー船長お仕事は、上手く行きましたか?」と無線のスピーカーから聞いてくる。

「はい有難うございました。向こうの船も知合いで、手筈通り進みました、拓少尉に替わります」と補助席の拓少尉にマイクを渡す。

ホッとした親娘

父娘はデッキ下の部屋にバックを置いて、運転室脇のラウンジでソフアに掛け佐藤さんと打合せ中、他の乗員はデッキで盛り上がっている。
「お疲れでしょうが、砂漠の公園でお会いして居たいですね、少しだけお聞きして置きたいことが有ります。拓少尉からも聞きましたが、お二人のお名前はこのまま「弥・賢樹さんと鈴由さん」で宜しいですか?「はいっ昔の「三枝」にすると、あの国が感づくでしょうし、家の戸籍も消えているでしょうから」と、寂しそうだ。
「いやぁ戸籍は残って居ますから、ご安心下さい」と佐藤さん。「そうでしたか~まぁ良いです、折角パスポートを作って頂いたので、慣れるまで時間が掛りそうですがぁ」と鈴由の顔を見る」鈴由も頷きパスポートを取り出し自分の写真を見て、微笑む。

「この後、高雄から成田に移動して休養して頂きます」「エッ休養ですか?どこか遠くへ行くのではないですか?」「最初はその予定でしたが、瀋陽の交通事故でストーリーを変わり、心身のリフレッシュの時間が出来ました」「はぁ~リフレッシュですか?」「明けて昨日までに成りますが<麗・浩治さんと宮春さん>から<弥・賢樹さんと鈴由さん>に生まれ変わりましたので、お誕生祝みたいなものです」と佐藤さんが茶化する。「誕生祝いですか~」と腑に落ちないがホットした気持ちだ。

安心できる土地

一行は、リャン海上サービスの船留めから上陸、交流協会のバンで高雄空港のフードコートに揃った。お別れのモーニングサービスで、コーヒーの乾杯と風変わりな送別会になった。
リャン船長と助手が辞退したが、佐藤さんが「少し異例なお仕事だったので、お礼を兼ねて今回の内訳をお話して置くことが、大事だと考えました」と挨拶代わりに話す。交流協会の木村君は軽く頷き、父娘は少し緊張しながら聞く。「弥さんたち私たちと同じ国籍ですが、事情があって隣の大国から離脱が難しくなり、密かにコンタクを取り段取りを付けました。ほとんどが我々の力及ばない他国の事で、身動きできませんでしたが、拓さんの上司が親日家で随所でご自分の地位と権力を行使して、強硬手段の脱出をバックアップして頂きました。この件は彼の国から完全に離脱しましたが、敢えて暫くは緘口令をお願いします」とみんなの顔を見ながら頭を下げる。
クルーザーの運行代は多めに支払って円満決着、交流協会にも通常は無い、支援金名目で支払い、搭乗券は「弥」名義のパスポートが有効で帰国の形で購入、高雄にはマカオからフェリーで入国のスタンプが有り、精巧なパスポートは有効で晴れて弥父娘は、自由な身になった。

二人はビジネスクラスのシートで、話もせずウトウトしている間に「窓の外に富士山が見えます」のアナウンスで目が覚め、外を見る。

荷物は持ち込みなので、佐藤さんと3人は外交官待遇の入国で空港の別ゲートから中型のワゴン車で高速道路の入る。そのまま西に向けノンストップではしり、東京のど真ん中のホテルの地下に入る。

皇居も望める一等地

地下だと思ったが上を見ると青空だ。フロントでサインして、バックを預けラウンジに進む。佐藤さんが奥のソフアに案内し「電話してきます」カウンターに戻る。フロントで受話器を取り話し始める「はいっ只今戻りました、ラウンジの奥に席をとりました」と切った。

気にしていた旧友との再会

フロントな脇のエレベーターから女性と中年の男性が近付いて、佐藤さんに軽く手を上げ父娘の脇で弥さんの顔を見ている。
「やっぱり浩治か?ぁ」と笑顔になる。弥さんはいきなり本名呼ばれぎょっとする。なんだこいつはという顔で見返す、記憶装置を操作するように頭を捻って居たが「あっつお前は修二か?杉原修二だ」と可なり大きな声を出している。鈴由が驚いて父の袖を引き「声が大きいです」と諫める口調だ。「あれっつ、佳代さんって言ったけ、結婚したのか?」とお役所の幹部と、来客が大声で会話して居る。ここはお役所の直営のホテルで一般の宿泊者は少ないが、佐藤さんがどうしよう見たいな顔で両者を見ている。

母親の事を知っている友達なのだろうと、冷静な目で眺めて居たが、スッと立って
「私、弥鈴由と申します父のご友人とは気付かず失礼しました」と丁寧に頭を下げる。