武道場のきずな-11(お出迎え)
顔を伏せながらお出迎え
やはり出発は別々になったが、羽田には殆ど同着のJAL便で調整したようだ。
シンディーは粘り強くJAL支店のプランナールームで、羽田の着便を逆算で書き出し上海からの飛行時間が短いのに気づき、香港のファミリーを先着することも考慮した。
香港羽田便の方が多いので、手際よく予約できた、リューさんが上海の慰労会に出発前にプランシートと、上海羽田間のチケットも渡すことが出来た。
リュウ―さんのお嬢さんも同行するので、杉原さんに連絡同意を得てファミリー旅行が始まる。
今回は勇退した人の来日だが、現役時代んなら省庁はそれなりの対応が必要だ。
杉原局長と神田警視も同行し、二階堂警部がハイヤー会社のバスを貸し切り、ターミナル交番の前で中型バスが止まった。
降りて来たスーツの男性二人が、身分証明の替わりにネームカード提示し、名前と階級を言う。察庁の警視と外務省の局長が、笑顔で並んで挙手をし(チョット外国のお客を迎えなので頼む)と気軽な感じだ。
お付きが二人も降りた、20人乗り位のバスだが制服の警官がネームカード確認して固まって居る。
「どうした〇〇くん」と立哨の警官に声を掛け出てきた、制服の警官が
「どうしたの?二階堂警部!」と中型バスから降りた二階堂警部に声を掛ける。
「おっ 増田警部 こちらでしたか、今日は非公式のお客さんをお迎えに来ました。
上司の神田警視と領事局 局長の杉原さんのお供です」と挨拶。
驚いた増田警部も飛び上がるように、先行するお二人さんに敬礼する。
二人も立ち止まり杉原さんが、口に指を立て片手を上げる、会釈する。神田さんは何も言わずに、増田さんの顔を見ながら笑顔で頷き軽く手を挙げる。
二階堂警部は、帰る時の事を打ち合わせ情報局の係官と少し遅れて、到着ロビーに走る
やはり出口が反対なので、ターミナルビルを半周してバスやタクシー乗り場に着けるようだ(その時は、交番から2~3人出して誘導するから、車を動かす時は声を掛けて下さい)と配慮してくれた。
増田さんとは年が違うが、警部昇格が同期で、研修なども何度か顔を合わせ冗談も言える仲だが、警視庁本部から移動したのは知らなかった、頼れる同期生だ。
杉原さんと神田さんは目立たないように、到着出口から少し離れた税関検査が見通せる場所から出口に背を向けるように立って居る。
二階堂警部にアイコンタクトして、一般利用者の視線を外しスマホを取り出し通話中を装い、視線は手荷物受取場を見ている。二人とも通常は特別ゲートから出入りするので落ち着かない様だ。
到着出口脇のソフアにシンディーと香港組が座って居るのを見逃し、二階堂警部がスマホのLINEの画面を居ながら視線を走らしている。
「二階堂さん、ここですよ」とシンディーが、すらっと立ち上がる。
「アッツごめんなさい、いらっしゃい」と軽く会釈しながら、4人に挨拶
「リューさんたちは、今着いたくらいですが2~30分くらい掛かるかな?」と時計を見ながら「お二人さんだけですか?」とお迎えが少ないので不審な顔だ。
「いや~4人ですが、お偉いさんは恥ずかし様で、反対側に居ます」とゲートの反対側で背を向けている二人。呼んでくるように、海外情報局の佐藤君に目配せした。
「な~んだ、やっぱり杉原さんたちも来て下さったのね」とシンディーが手を挙げて杉原さんたちに合図しマイケルが来るかと期待した顔だ。
「この間の連中は、今晩のディナーに参加します」と小声で伝える。
二階堂さんは、シンディーのおかぁさんと叔父さんの元総領事館の事務官に挨拶する。
「杉原さんと神田さんは、恥ずかしがり屋さんなので、あそこじゃ見えないわよ」と厳しいご挨拶だ。
「シンディーさん、ハウさん、その節はお世話になりました、有難うございました」と杉原さんと、神田さんは学生の様にしゃちこばって、最敬礼の礼をしている。
二人を知っている人が見たら仰天する一コマだが、二階堂さんはニヤニヤしながらゲートの方にうごく。
お付きの佐藤君も、局長があんなに丁寧に挨拶するなんて、始めてみたので笑わないが、神妙な顔で控えている。
リューさんたち上海組も予定より早めに着き、賑やかな御一行様が揃った。
七人の珍客に4人の迎え人が、ぞろぞろとエスカレーターを使って正面出口に向かう。
知らない人は、きちんとスーツ姿のイカメシイ4人が長身の若い女性を中心をガードするように、トップとリアについて行く。
二階堂警部が、先頭で交番に顔を出し挨拶、すかさず制服の警官が4人ほど走り出す。駐車場の観光ハイヤーも気付いてドアを開け、白い手袋をはめた女性ガイドが丁寧な中国語で案内する。
さっきは、乗って来なかったガイドが急遽派遣されたようで、運転手が電話で要請したのだろう。大きな役所のオーダーなので気を使った様だ、杉原さんたちも慣れない中国語を使わずに済みそうだ。
前に座った神田さんが、運転手にお礼を言っていた。
「都内の主だった名所を廻るのに気を使う仕事だなぁ」と霞が関を出る時、杉原さんとコボシテいたが、救われたように明るくなったキャリアの二人だ。
それでも杉原さんが、駐車場から出て首都高に入ったところで、マイクを借りて挨拶、メンバーを紹介しガイドのコースシートを見ながら
「若し、空腹を感じる方が居りましたら、最後の歌舞伎座で軽い食事にしますが、夕方「日本の料亭」でメーンの食事会を予定して居ますから」
すかさずシンディーが手を挙げて
「フライトも丁度ランチタイムだったので軽食を頂きました。杉原さまご心配かけて申し訳ありません、和食を楽しみにしています」と流ちょうな日本語でコメント。
皆も笑いながら一斉に拍手して、マイクをガイドに渡す。
そう言えば、さっきは乗って居なかった女性のガイドが白い手袋をはめて、笑顔で受取東京のガイドを始めた。