カン・ソンシさんは日本人だった-6(東シナ海は深った)
元取締役キンはフェリー乗り場で検問に会い、拘束されたようだ。殺人教唆の罪だが中国本土とは協定が無いので、引き渡す必要が無いと言う判断で、近いうちに釈放されそうだという情報が入った。
実行犯を引き取ったのが今朝なので、香港から離れずにチョウさんの持ち船の艀に、クルーザーを舫いゆっくりしていた時、情報が届いた。
フェリーから(ワゴン車が降り漁港の方に回った)とスマホで短いメッセージが届いた。船長のシュウさんが飛び出し、チョウ・カク・カン・シンと4人が続きクルーザーに飛び乗る。
早朝の漁港は、寮に出る漁船とその家族などがワイワイ居るので、ワゴン車が岸壁近くにいても不審がらず、自分たちの仕事を遣っている。
クルーザーも少し離れた位置でエンジンを切り、惰性で岸壁に近づき、チョウさんだけが舫い綱を持って舳先に立つ、ワゴン車から若いのが一人綱を受け取り、そのまま体を斜めに踏ん張っている、後ろから中年の男が両脇を抑えられて、クルーザーに押されるように乗ってきた。
カクさんが素早く出て、一緒に船室に引きずり込む。ほんの1分くらいの動きだ。舫い綱を離した若いのはワゴン車に潜り込み。クルーザーは静かに漂うように岸壁を離れる。
チョウさんが漁船の船長に軽く手を挙げて、挨拶して事は済んだ。
カンさんは不貞腐れたように突っ立ているキン取締役の正面に立ち、一言も発せずでボディーブローで心臓下を、右の拳が顎に炸裂、血を吐きそうなので相手のコートをはぎ取り頭をくるむ。なんとも手際が良い始末だ。
カクさんが面白そうに
「プロの一発は利くねぇ」と笑う。
カンさんは、みんなの顔を見回して目礼をし、チョウさんと握手している。
チョウ組長も何かやりたそうだが、遠慮したように若いのに何か指示して、ショウ船長に何か話して居る。
クルーザーは、朝日を浴びて気持ち良くチュウさんの自宅に向かう。キン取締は伸びたまま艀に持つ置き場に放り込まれ、両手・足と猿轡は頑丈だ。
実行の殺し屋も香港らしいので、チュウさんのネットを使って追って貰うのと、チュウさんの叔父さんに網を掛けて貰うことにした。
深圳から出張ってきた3人とチュウさんが艀の船倉でキン取締役に面対し、実行犯の割り出しに掛かる。
「あんたも、命が惜しけりょサッサと吐いた方が生きる道も有るかも知れないよ」とカクさんが優しそうに話しかける。
誰かにさらに痛めつけられたのか、顔面に痣が出来ている。
カンさんは、手も口も出さず傍観している、シン警備主任が本領発揮で間近に椅子を持ち出して、カクさんを睨んだその横ツラを書面に向かせ「何とかいえよ」と凄む。
鉄板の船底に膝をつき恨めしそうに見上げる顔は、少しも反省の意思が見えない。
「おめぇのお陰で、社長夫人も亡くなったんだよ、お前を裁くのは警察や裁判所じゃないんだよ、わかるか?」とシンさんが横っ面を殴る。
「昔馴染みのカクさんは実行犯を承知して居るんだよ、どこに隠れても1日2日でアジトは抑えるが、お前の口から聞きたいんだよ」とおでこを突く。キンは力無く後ろにひっくり返る。
そう言えばさっきから何も言わずに、目をギョロギョロさせて怯えているだけだ。
「おい、いつまでも置いてもらえないんだよ、今晩深圳に帰るとき流れの良いところで、解放してやるよ、もちろん両手足は固縛するよ、運が良けりゃ本国の海警に拾ってもらえるが、厄介毎は嫌だと言われてるからなぁ」とカンさんが本音を言う。
キンは思わず身震いするように後ろを見る。カンさんは素知らぬ顔で続ける。
「全部吐いて呉れればどこかへ飛ばしすこと出来るが、だんまりならシャークのご馳走だなぁ」と冷酷な宣言!
ここは香港と言っても、島の裏側の大潭湾(タイタムワン)の出口の方で、深圳に戻るには外洋に出るので、海流の激しい所が沢山ある。
体が自由に動かないので、両手で体を回しカンさんの顔を見る
「何だいその顔は、罪が無い俺の義理の両親を刺殺したんだよ、お前の指示で~」
その時チョウ組長がスマホを持って、急ぎ足で降りて来た
「(チン・シューウをアジトの裏で確保、ワゴン車に収容移動開始と着信)皆さん第2ポイント確保しました、固縛して上で休憩しましょう」とニコニコしながらキンを靴先で突く。
カクさん・シンさん・カンさんはホッとした顔で若いのと一緒に固縛して猿轡を噛まるゴムの人型ザックに入れ頭部分を出して占める。
暮れてきた香港の空も、夕焼けはきれいだ。